実績からピックアップ・執筆編

これまでに執筆した記事をまとめます。

このページは、「フランスの子育て事情」についてです。

フランスの育休制度

フランスの育休制度は、1985年にはじまる。現在の制度では、第一子から最長3年の休暇が認められている。支給される手当ては、最高で月額522ユーロ(約6万円)で、1人目の場合は6ヶ月間、2人目からは3年間もらえる。3人以上の子どもがいる場合、3年間休職して月額552ユーロを受け取るか、1年間だけ休んで月額790ユーロを受け取るかを選択できる。 2007年は57万人が育休制度を利用して休職した。両親のどちらかが取得できることになっているが、日本と同じで女性が多い。その数は98%に達する。全ての女性が希望して休職するのかと思ったが、現実は違うらしい。子どもを預ける場所が見つからず、やむを得ず休職して育児をしている女性が30%にのぼる。

フランスの出生率は去年2.02に上昇し、複数の子どもがいる家庭は珍しくない。ベビーラッシュの裏側で、託児所不足は深刻な社会問題になっている。3歳以下の子どもは全国で240万人いるが、子どもを預ける施設は100万人分しかない。フランス人の友人たちは、「妊娠したら、すぐに病院と保育園の予約に走りなさい」と口をそろえて助言する。 サルコジ大統領は、フランスの手厚い育児休業制度を「女性にとっても、家庭にとっても、社会にとっても、無駄」という表現をし、改革に乗り出そうとしている。「無駄」というのは、労働意欲があるのに休職を強いられている女性たちの現状を指している。大統領は、2012年までに新たに20万人分の託児施設を増やすと約束した。また、育休制度を短くする代わりに、労働時間の短縮などを検討する。

フランスが誇る家族制度が変わるかもしれない。年間80万人の女性が労働市場を離れている現状は改善されるかもしれない。しかし、子どもが3歳になるまで育児に専念したい人たちからはため息がもれる。この選択肢を失ってしまうのだろうか。

(2009年2月17日 mainichi.jpコラムより一部抜粋)

2歳の子どもの保育方法

2000年からベビーブームが続いているフランスで、2歳児の保育方法が話題になっている。幼児を持つ親の6割が仕事をしているが、悩みの種は子どもを預ける場所。高い出生率に保育施設が追いつかない。そこで、サルコジ大統領は、選挙公約で「2012年に、子どもを預ける方法が見つからない親は、公的機関に不服を申し立てることができる」と約束した。しかし、現実は厳しい。公約を守るためには、5年間で幼児30万人分の受け入れ先を増やさなければならない。 ところが、首相に委任された議員がまとめた報告書によると毎年5万人分増やすのが限度。このままでは、不服申し立てが殺到してしまう。

フランスでは、2歳児も学校の幼児教育を受けることができる。所管する教育省によると、義務教育が始まる6歳未満の子どもを対象にした幼稚園(保育学校)で、授業料は無料。ただし、2歳児は空席がある場合に限り、おむつを卒業しているなど条件付で受け入れる。 現在、3歳から5歳の幼児はほぼ全てが通っているが、2歳児は4分の1にとどまる。空席がない。また、受け入れ体制が充分でないのも現実だ。

2歳児の幼児教育には異論も根強い。教育大臣が、「資格を有する教員におしめを世話させるのはいかがなものか」と発言し、物議をかもしている。 小児精神科医のカロリン・エィアシェフ医師は、2歳児と3歳児の違いは、10歳の子どもと15歳の少年の違いほど大きいな差があると言い、2歳児を学校教育に組み込むことに反対している。教育的観点よりも、無料で預けられるという経済的理由で希望する親が多いと批判する。

では、3歳未満の幼児を預けるほかの方法はどうか。フランス人が最も利用しているのが保育アシスタント。かつては「乳母」と言われた人たちのことで、自宅に子どもたちを迎えることができる。2005年の法律で身分が規定され、研修も受ける。 保育アシスタントに子どもを預けた場合、年間約1万ユーロかかる。家族政策の一つである乳幼児受け入れ手当(PAJE)を受けることができるが、全額まかなえるわけではない。

フランスは、2歳児の保育方法を巡って試行錯誤が続きそうだ。
(2008年9月29日 mainichi.jpコラムから一部抜粋)

仕事と家庭の両立

フランスは、出生率がヨーロッパで最も高く、女性の8割以上が働いているが、仕事と家庭の両立は難しい。仕事のストレスによって早産が増えている。 そこで、国と企業が一体となって働くママやパパたちを応援する「職場における親の憲章」を発表した。自動車、建設、メーカーなどフランスの大手企業30社がこの憲章にサインしている。

憲章は、バランスのとれた仕事と家庭の環境づくりを目指している。共稼ぎ夫婦の8割が3歳以下の子どもを育てており、最も頭をかかえるのが託児所や保育園の送り迎え。 そこで、「9時前と18時以降は会議を行わない」「企業内に託児所をつくる」など。また、フランスの学校は休みが多く、子どもたちを預ける場を探すのは大変だ。 そこで、「毎週水曜日とバカンスの間、4歳から10歳までの子どもを職場に迎える」といった具体的な実例が挙げられている。

この憲章を求めてきたSOS-Premaという組織によると、フランスでは毎年6万5000人が予定よりも早く産まれ、女性の社会進出が顕著になった1995年からの増加率は45%に達する。 この組織をつくったシャルロット・ラヴリルさんは「早産は職場のストレスに起因している」と分析する。ラヴリルさん自身、第二子が9週も早く生まれた経験を持つ。「早産を予防するため、働く環境を改善したい」と2004年にこの組織を立ち上げた。

家庭と仕事の両立を求めているのは女性ばかりではない。子どもを持つ管理職男性400人を調査したEquilibres(2008年2月発表)によると、3分の2が、家庭と仕事のバランスを望んでいる。 この傾向を裏付けるのが、「父親出産休暇」の取得者が6割にのぼること。これは、2002年に父親のために導入された制度で、生後4ヶ月以内の新生児を世話するために連続11日間休むことができる。 仕事のキャリアを保ちながら、子どもとの遊び、学校の送り迎えなどの育児にもかかわる管理職が増えている。

フランスでは「家庭と仕事の両立」は女性だけが発する言葉ではない。男女ともに両立を必要とし、社会がそれを支えようと動きはじめた。
(2008年4月15日 mainichi.jpコラム掲載)

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フランスの小児医療事情

保育園のアダプタッションを無事に終えて、本格的に通い始めて1週間。息子が疲れている。

お風呂にいれるため、いつものように体温を測ると、37度を超えている。しばらくすると、37.9度。

22時、38.5度。パリ市が配布する健康手帳 Carnet de santé) によると、「38度を超えたら、解熱剤を飲ませる」とある。しかし「子どもの様子がいつもと変わらなければ、飲ませる必要はない」ともあり、どうしたらいいかわからない。

かかりつけの小児科はもう開いていない。

インフルエンザが流行している折、救急病院は、きのうのニュースで「3時間待ちだったところがある」と報道していた。

そこで、私がコンタクトをとったのがURGENCES PEDIATRIQUES(小児救急隊)。これは、小児科が閉まっている時間を補強するサービスで、月曜日から金曜日の20時から0時まで、土曜日は14時から0時、日曜日は8時から0時まで、小児科医が自宅にも駆けつけてくれる。

ところが、「パリ17区に行けるドクターがいません」とのお返事。 そのかわりに「SOS MEDECINS」を要請してくれるとのこと。以前、SOS MEDECINSを取材したことがあり、システムはよく理解している。小児科医ではないだろうが、お願いすることにした。 どれぐらいで到着するか訪ねたところ「5分から60分」とのこと。随分、差があるなぁと思ったが、17区周辺でしばしばSOSの車が走っているのを見かけるので、それほど待たずにすむのではないか。

15分後。インターフォンがなり、ドクター到着。早い。
熱の測り方を聞かれたので、「わきの下の体温に5度プラスしている」、と伝えると、首をふるドクター。直腸が最も正確だと言う。ドクターが測定すると、熱は38.7度にあがっていた。

からだ全体を調べ、血圧を測り、小児用の解熱剤Doripraneを飲ませる。「4時間後に39度を超えていたら、子ども専門の病院へ搬送すること」と、健康手帳に記入し、「目覚ましをかけて、午前3時に起きて、直腸で熱を測りなさい」、とドクター。

4時間後、幸いにも熱は下がっていた。

翌朝、訪問してくれたドクターが心配して電話ををくださった。「午前3時の体温は?」「今朝の体温は?」
子どもを救い・支えようとするネットワークがこの社会には存在する。初めての発熱は、こうして乗り切ることができた。
(2009年11月8日)

パリの保育園事情

3ヶ月になる息子。少しでも早くフランス社会になじんでもらおうと保育園に入れることにしました。夏のバカンス前、初会合が開かれましたが、ちょうど産科クリニックに入院していたので夫だけが出席。 初めて保育園に行った私は、朝からそわそわして落ちつかず、まるで自分が保育園に入るかのようでした。

園長先生にご挨拶をして、息子の担当保育士と個別面談。息子のように生後まもない赤ちゃんは、「セクション・ベベ」というクラスに入ります。4人の保育士が、それぞれ5人のベベちゃんを受け持ちます。

息子は、4ヶ月になったら保育園に通い始めることになりました。

ところで、子どもを預ける場所が不足しているのは、日本もフランスも同じです。去年、与党UMPの議員さんが首相に報告したレポート(rapport Tabarot) によると、3歳以下の子どもは230万人いるのに対し、保育園や保育ママさんなど子どもを預けることができているケースは100万人分にすぎないとのこと。子どもを預けることができず、働きたくても働けない(多くは女性)状況は、社会問題になっています。

そんな厳しい託児事情にもかかわらず、私たちが保育園に息子を預けることができる理由。それは、身重の体で長蛇の列に並んだからです。 妊娠が発覚すると、友人たちは「保育園の予約をしたほうがいいよ」とアドバイスをしてくれました。 出産する病院も決めていないのに、保育園の心配をしろと言われてもピンときませんでしたが、言われるままにパリ17区役所に出向くと、妊娠6ヶ月目から予約をすることができるとのこと。 妊娠6ヶ月1日目に区役所に行くと、長蛇すぎて最後尾が見えないほどの列。2日目に早起きしていくと、あふれんばかりの人々。 一週間に一度だけ、午後も窓口が開いていることがわかり、昼過ぎから区役所に繰り出すと、10人目ぐらいに滑り込むことができました。担当者は30分遅刻。大きなお腹をかかえて、何時間待たされたことか。

その間、前後の女性たちが保育園不足と予約システムの非効率さをなげきはじめ、そこに並んでいた人々みんなが体験談を語り始めました。 話を聞くと、「保育園は共稼ぎを優先しているため、求職中の女性はなかなか席を確保できない。子どもを預けられないから就職活動もできない」 予約窓口は10時から12時までしか開いていないので、「サラリーウーマンは産前休暇に入ってからでないと窓口に並べない。それは妊娠8ヶ月になり長蛇の列はキツイ」などなど。

晴れて、保育園に席を確保することができ、夏のバカンス前に行われた会合に出席した夫。まわりの人びとから「お宅はどんなコネを使ったの?」と聞かれてびっくり。みんな、「どこどこのお偉いさんの口利き」なる手段をつかっていたようです。

私たちは、ただひたすら長蛇の列に並びました。コネどころか、育児仲間もなく、情報も限られていた私たち夫婦が保育園を確保できたのは奇跡に近いようです。
(2009年9月14日)

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